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東京での生活は、時計の針と競争するような毎日だった。満員電車、コンビニの明かり、ひっきりなしの通知音。気づけば、あまり深く深呼吸していない日々。 そんな私が、ふとしたきっかけで田舎に移住した。最初は不安の方が大きかった。「虫が出るらしいよ」「車がないと不便だよ」と周りは口をそろえて心配してくれた。でも、それでも私は、あの景色に惹かれた。緑の山に囲まれた、小さな集落の静けさに。

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引っ越して最初の朝、あまりの静けさに驚いた。目を覚ました時、遠くの川のせせらぎが聞こえた。風が木の葉を揺らす音も。そして私は思った。「ああ、こんな音を、私はずっと聞き逃していたんだな」と。 生活は確かに不便だ。買い物は週1回。ネットの電波も弱い。けれど、朝どれの野菜をもらったり、お隣さんから魚のさばき方を教わったり、誰かと目を合わせて「こんにちは」と言葉を交わす時間が、こんなにも心を満たすとは思わなかった。

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今では、都会の友達から「元気?」と連絡が来るたびに、写真を送る。洗濯物が風にはためく風景、夕方の空、梅を漬けた瓶。きっと何も特別じゃない。でも、私の毎日は、こんなふうに静かに豊かに、進んでいる。

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「春が来るよ」 お隣のおばあちゃんが、そう言いながらふきのとうを手渡してくれた。私は、実はそれが何かもよくわかっていなかった。でも、教わった通りに天ぷらにしてみると、少しほろ苦くて、でもどこか優しい味がした。ああ、これが“春の味”なんだな、と思った。

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都会での暮らしでは、スーパーの棚に並ぶ野菜や果物しか知らなかった。季節の移ろいは、服のカタログかSNSの投稿で知るものだった。でも今は、土の匂いや風の温度で季節を感じるようになった。 ある日、町の寄り合いに誘われた。大きな釜で炊いたごはんに、味噌汁、お漬物。

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みんなで並んで食べて、おしゃべりして、笑った。「都会から来たんやろ?」「一人でよー来たなあ」と何度も言われた。 私はうまく答えられなかった。ただ、「なんだか、こっちの空気が合ってたんだと思います」とだけ言った。

確かに最初は、心細さもあった。誰も知らない土地で、ひとりぼっちの気分になる夜もあった。でも、今はもうこの道も、この景色も、少しずつ自分の一部になってきている。

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夜、縁側に座って。

虫の声を聞きながらお茶を飲む。都会の光の中では気づけなかった小さな幸せが、ここにはいくつも転がっている。 「何もないけど、あるんよね」

~風の音が聞こえる場所へ~

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